2011年12月18日日曜日

増え続ける日本のムスリム

増え続ける日本のムスリム
彼らは何を思い、何を大切にして暮らしているのか?
佐藤 兼永


東京の代々木上原にある東京ジャーミイをご存じだろうか? 大きなドームと尖塔を備えた、歴史の教科書に出てきそうな佇まいの壮麗な建築物は、オスマントルコ様式のモスク――イスラム教の礼拝所--だ。建物の躯体工事は日本のゼネコンが担当し、内外装はトルコから招聘した職人が手がけた。
トルコ共和国政府の手で建てられた東京ジャーミイは日本を代表するモスクの一つだが、典型的な日本のモスクではない。早稲田大学の調査によると、2010年3月現在、日本各地に60を越えるモスクがある。それらの大半は、1980年代後半以降に急増したムスリム(イスラム教信者)の労働者や留学生が自ら建てた、草の根のモスクだ。

この連載では、ムスリムという、多くの日本人にとり馴染みの薄い人たちを取り上げる。 80年代以降、日本に魅力を感じ、日本で学び、働くムスリムが増え続けている。少子高齢化に直面する日本社会及び日本企業は、彼らの力を必要としている。ムスリムが何を思い、何を大切にしながら日本で暮らしているのかを知ることで、彼らと一緒に暮らしていくためのヒントが得られると思う。

「マイノリティになる以前のマイノリティ」
 日本に暮らすムスリムの正確な数を把握することは難しい。国勢調査や、法務省の出入国管理統計などにおいて宗教を問う項目がないからだ。早稲田大学で、日本に暮らすムスリムの調査を進めてきた多民族多世代社会研究所の推計によると、11万人前後のムスリムが日本に暮らしているとみられる。そのうち10万人ほどは外国籍のムスリムだと考えられている。(2010年3月現在)


つまり彼らが日本の人口に占める割合は0.1%にすら満たない。このように超少数派である日本のムスリムのことを、聖トマス大学非常勤講師の河田尚子氏は『日本人女性信徒が語るイスラーム案内』(つくばね舎)の中で次のように表現している。

 「陶芸家には、『無名の陶芸家』と呼ばれるようになる前の『無名になる以前の陶芸家』という言い方があるそうだが、私は、日本のムスリムの状況は、『マイノリティになる以前のマイノリティ』という言い方がぴったりなような気がする」。

ムスリムが来日する理由~出稼ぎから留学まで
 相対的に見て少ないとはいえ、ムスリムの数は着実に増えてきている。

 日本でムスリムの数が急速に増え始めたのは、80年代後半。バブル経済下の好況で、工場などの人手不足が深刻化した。当時、ビザの交互免除協定を結んでいたパキスタンやバングラデシュあるいはイランから労働者が来日するようになった。海外からの出稼ぎである。また1990年代後半から増えてきたインドネシア人には、外国人技能実習制度の下で来日した研修生も多い。

 近年ではイスラム圏からの留学生も増加してきている。それに伴い、卒業して日本の会社に就職する会社員ムスリムも徐々に増えてきた。

 マリ共和国出身で、電気通信大学大学院の博士課程に在籍するシセ・アハマドゥ・ディトゥ・アディさんによると、マリの学生の多くは、人脈づくりやビジネス・チャンスを求めて中国に留学する。しかし先進の技術を学びたかったシセさんは、日本への留学を選んだ。

 2005年にマレーシアの国費留学生として来日し、帝京大学で機械精密システム工学を専攻したノルル・シャズミラさんの目的は技術の習得だけではない。日本の企業文化・ものづくりの姿勢を学び取ることにある。

 2009年に大学を卒業した後、都内に本社を置く社員150人ほどのメーカーに就職したノルルさんは、埼玉県内の工場で品質管理の仕事に従事している。「仕事に対する日本の文化というか性格・態度にすごく憧れて。みんなの真剣な態度を身につけたいと思い、日本の企業で働きたいと思った。日本のエッセンスを身につけたい」。

 来日する理由は多様化している。欧米やシンガポールの大学への進学という選択肢もあるなかで、子どもの頃に日本のアニメなどに親しんだことを、来日の決め手に挙げる人も居る。

国際化が進む日本社会
 東日本大震災の影響もあり、日本の経済の先行きは不透明だ。ただ、長期的視点に立てば、日本社会の国際化・多様化がさらに進み、外国人労働者への依存度が高くなると見て間違いないだろう。

 少子化対策の必要性が指摘されて久しいにもかかわらず、いまだそれを食い止める切り札は見いだせていない。既に日本の人口が減り始め、それに伴うGDPの減少も懸念される。少子化は高齢化を加速させるだけでなく、社会福祉分野の需要を高める。その一方で、働き手は減り続ける。

 この状況を打開する策の一つが、外国人労働者の本格的な受け入れだ。国はまだその方向に舵を切っていないが、労働市場における外国人の存在感は徐々に増している。厚生労働省の調査によると、2010年10月末の時点で64万9982人の外国人労働者が国内で働いている。これは就業者全体の1%ほどにすぎないが、前年比で15.5%の伸びだ。


2008年には外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れが始まった。日本政府はインドネシア及びフィリピン政府との間で結んだEPAの枠内で、相手国の要請に基づいて受け入れている。一方、候補者を受け入れている施設側は、外国人の受け入れを別の視点から捉えている。

 「社会的に少子高齢化とか人材不足が叫ばれています。私たちが最初に考えたことは、そういうことに早くに手を打っておいた方が良い、ということです」。東京の八王子にある永生病院の相談役である宮澤美代子さんは、EPAに基づく受け入れプログラムに初年度から参加した理由を、こう説明する。  

 看護・介護採用担当部長でもある宮澤さんによると、今のところ永生病院では、看護師や介護福祉士の人材を確保できているという。しかし、将来外国人の手が必要になる可能性を念頭に、候補者を受け入れる経験を積んでいる。「ノウハウは全くありません。言葉の問題もあります。長い先、5年、10年先を見て、人を育成していく必要があると思います」、

企業の成長には多様性が必要
 少子化だけが国際化を推し進めるわけではない。多くの企業が、日本の大学で学ぶ留学生を積極的に採用しようとし始めている。

 NPO法人国際留学生協会が6月19日、外国人留学生就職フォーラムを主催した。これに21社の企業が出展した。参加した幾つかの企業の担当者は、留学生の持つ資質に魅力を感じていると口にした。

 「自分の国とは全然違う国、日本でチャレンジして、色々勉強している。そのタフさを僕らは評価している」(大手鉄鋼メーカーの担当者)。

 「日本企業の人材は、よく金太郎飴に例えられます。同じような人材を集めるだけでは企業の発展はなし得ないと思ってます」(医療系ITアウトソーシング会社の担当者)。

それでもなぜムスリムを気にかける?
 これらの企業の担当者は、留学生の中に居るムスリムの存在をどれだけ意識しているのだろうか?

 中には既にムスリムの従業員が働いている会社や、イスラム圏の現地法人で働くムスリム社員を研修のために受け入れている会社もある。しかし、外国人の採用自体を始めたばかりで、ムスリムの採用経験がない会社の方が多い。

 それでも、ムスリムの存在をまったく意識していないわけではない。先ほどのアウトソーシング会社の担当者は言う。「(ムスリムと一緒に働く機会が増えることは)今後必ず発生する課題と認識している。我々は企業として、人材を生かす、あるいは、受け入れる土台・土壌を作る努力をしていく必要がある」。

 この「今後必ず発生する課題」ということを、複数の人事担当者が異口同音に口にした。そして、この課題を克服するためには、会社の方も変わらなければならないという。

 「やっぱりムラ社会、島国なもんですから。宗教に限らず国籍が違う人とのコミュニケーションの経験がない人が、まだまだ多い。事業のグローバル化はもちろん、人の内面のグローバル化も進めていく必要があります。」(自動車関連メーカーの担当者)

 この連載では、職場や学校・地域社会などでムスリムと日本人がどのように向き合っているのかを詳しく見ていく。次回は、ムスリムがどんな生活をしているか、を展望する。知っているようで知らないことが、けっこうあることに気づくだろう。






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