2011年12月19日月曜日

アフリカで見たもの

アフリカで見たもの
見落としてはならない社会のメガトレンド
御立 尚資

WFP(国連世界食糧計画)のお手伝いをしている関係で、アフリカに行ってきた。国連WFP協会の会長である丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長とご一緒に、ケニア東部の干ばつ被害地、ソマリア国境の難民キャンプなどで、緊急食料援助の現場を見せていただいたのだが、最も強く印象に残ったのは、ナイロビのスラムで暮らすAIDS(エイズ)に冒された子供たちだった。

 エイズを発症した両親が死んでしまうと、残された貧しい子供たちは次の日から食べていく術がない。周辺国やケニア国内の低開発地域から、チャンスを求めて大都市ナイロビのスラムにやって来た人たちの大部分は、その日暮らしだ。子供だけが取り残されたような場合、近所の貧しい人々が、乏しい中から何らかの食べ物を分け与えることが多いそうだが、当然それには限りがある。アフリカの中では比較的豊かなケニアでも、最底辺の人たちに対する福祉制度は不十分だ。


「教師になりたい」と答えたエイズ患者の少年

 親から受け継いでしまったHIV(エイズウイルス)とも闘っていかねばならないが、栄養状態の悪い子供たちは、たとえ薬をもらえる状況になっても、それを受けつける体力がなく、効果が得られない。孤児たちの多くは、生き延びるために犯罪に手を染めることになり、中にはエイズ発症への恐怖から自暴自棄になり、凶悪化していく者もいる。

 我々が訪ねた一家では、10歳から17~18歳の4人の少年少女が、わずか2畳ほどの、電気も水道もないバラックに住んでいた。全員がHIV保有者で、うち2人は治療が必要な状況にある。

 幸運なことに彼らは、WFPが協力しカトリック系の団体が運営している、貧困とエイズに苦しむ人たちを支援するプログラムに助けられた。1日の必要カロリーの半分程度とはいえ、WFPから提供される食料で栄養失調状態からは抜け出せたし、プログラムの一環で学校教育も受けている。近くエイズ治療を受けられる可能性も高いらしい。

 少年の1人に、「今望むものは」と尋ねたら、はにかみながら「学校にきちんと行って、将来は教師になりたい」と答えた。たとえ、親を失い、病魔に冒されていても、少なくとも彼らには、夢がある。


先進国企業にとっての感染症の意味

 ただし、推定人口100万人と言われるキベラ地区のスラムでは、その多くがHIV保有者であり、今後ものすごい勢いで孤児が増え続けていくことは間違いない。少なくとも、現段階でも、WFPやその他のNGO(非政府組織)の支援はほんの一部しかカバーできていないし、今後支援が届かない層は、拡大し続けるだろう。さらに、ケニアよりも状況が悪い国は、枚挙に暇がない。


干ばつ、内戦、政情不安といったマイナス条件に襲われ続けているアフリカの最貧国すべてで、エイズのもたらす社会コストが、将来にわたって拡大していくことは、ほぼ間違いない。労働人口の多くがエイズに冒されることで経済の成長力は大きく損なわれる。さらに、働き手が死んでしまった後に残された老人や孤児たちが、数百万人にも達するだろうと予想されている。

 これは、先進国とその企業にも、少なからぬ影響を与えよう。先述したように、支援の手が届かない孤児たちの多くは、犯罪に走らざるを得ない。進出している海外企業にとって、治安のさらなる悪化は、ビジネス拡大の足かせとなり、安全担保のコストと合わせて深刻な課題となる。社会に対する不満・不安を持つ層が増えるにつれ、既に難民や違法移民の大規模流出が始まっている。旧宗主国であるEU(欧州連合)各国にとっては、大変頭の痛い問題だ。また、この層は、テロリストが新たなメンバーを求める先でもあり、先進国の安全を脅かす大きな要因となる。

 アフリカに加えて、アジア、中南米でのエイズ増も考えると、この問題が、先進国や先進国企業にとって、将来大きなインパクトをもたらす可能性は極めて高いのだ。


病気が与える影響に対して意識が低い日本企業

 世界的な景気回復を受けて、最近将来の成長シナリオを考え、長期ビジョンを作成する企業が増えてきた。我々コンサルタントも、こういった長期ビジョンの作成に参画する機会が、欧米でも日本でもはっきりと増えている。

 将来を厳密に読むことは不可能でも、これから起きる可能性が高く、かつ、企業経営の将来像に大きなインパクトがありそうな事柄について、複数のシナリオを立て、自社ビジョンを考える前提とすることはできる。従って、政治・経済・社会のメガトレンドを考え、既に大きな変動の兆しが、ほの見えるものについて、シナリオを作っていくということになる。

 こういうお手伝いをする中で、欧米企業と日本企業で大きな違いがあることに気がついた。エイズやSARS(サーズ=重症急性呼吸器症候群)に代表されるディジーズ(病気)が与える影響について、欧米企業の多くは、非常にセンシティブで、必ずメガトレンドの中に含めて考えているが、たいていの日本企業は、この視点が欠落しているのだ。人口変動、技術革新、エネルギーや水などの資源の希少化、といった項目は、どの企業も共通して着目しているのだけれど、病気・疾患に関しては明らかに注目度に違いがある。


「コントロールできないから仕方がない」では済まされない

 日本では社会問題として耳目を集めてはいるものの、まだ経済、企業への影響が小さい、といった理由はあるのだろう。だが、グローバルなビジネスを長期に考えていくためには、これは避けて通れないメガトレンドの1つだ。エイズだけではなく、突然変異した病原菌やウィルスによる大規模な被害がいつでも起こり得るのは、サーズの事例でも明らかだろう。



競争相手がきちんとシナリオを考えているのであれば、「そういうコントロール不可能なことについて、考えていても仕方がない」というのでは済まされない。

 これから、長期ビジョンを作ろうと考えておられる経営者の方々は、病気というメガトレンドにも一考を払ってみてはいかがだろう。自社にとっては心配するような話ではない、となれば結構なことだし、もしもある地域でのビジネスに決定的な影響がありそうだ、となれば、リスクを踏まえたうえで、将来の自社の「ありたい姿」を考えることができる。


決定論的立場と関与論的立場のどちらを取るか

 もちろん、企業ができることは、エイズのような難病のインパクトを、受動的に予測すること(言い換えれば、ある事象は既にその発生が決定されたものであり、自分がそれに影響を与えることはできない、という決定論的立場を取ること)だけではない。

 企業とその構成員が、様々なやり方で、ディジーズインパクトを軽減させる活動に能動的に関与することは可能だ。個々の企業ができることには当然限界があるが、能動的な立場を取る企業(とその構成員)が増えれば増えるだけ、自らへのインパクトを小さくすること(自らを含む環境に働きかけることで、未来の絵姿に自ら影響を与えていく関与論的立場を取ること)ができる。

 例えば国連WFP協会では、企業のCSR(社会的責任)活動の中で、従業員を巻き込むプログラムを作り、それを通じてエイズの子供たちを含む食料提供に企業(と従業員)が参加できるようにしている(http://www.jawfp.org/)。もちろんWFP以外にも多種多様な団体が様々な活動を用意しているし、企業が直接ディジーズ対策の活動に参加することも可能だ。

 病気を含むメガトレンドを、将来ビジョン策定の中できちんと考えてみることに加え、自らがポジティブな影響を与え得るトレンドについては、CSR活動の一環として積極的関与をしていくことも、検討してみてはいかがだろうか





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