2011年12月19日月曜日

人間の思惑に翻弄されるケニアの野生ゾウ

人間の思惑に翻弄されるケニアの野生ゾウ
乱獲かと思えば、次は過保護!?
藤田 宏之


ケニア中部のサンブル県周辺には、同国有数のゾウの生息地が広がっている。 「ナショナル ジオグラフィック日本版」9月号では、この道40年のゾウ研究者と行動を共にし、ゾウたちの雄大な姿をとらえた。

 物語は、英国の生物学者イアン・ダグラス=ハミルトンが、1頭のゾウに忍び寄ろうとしているシーンから始まる。

 相手は、年ごろを迎えた大きな若い雌で、恥ずかしがり屋だ。ゾウの名前はアン。ケニア北部の奥地にある、小高い丘の木立に半分身を隠して、家族と一緒にのんびりと若葉を食べていた。その首には頑丈な革の首輪がはめられていて、ちょうど肩のあたりに発信器がついている。


ダグラス=ハミルトンはこの発信器から出る信号を頼りに、アンの居場所を見つけ出した。小型のセスナ機が使えたのは途中までだ。後は背の高い草やアカシアの茂みをかきわけて、自分の足で進まなくてはならなかった。

 身をかがめたダグラス=ハミルトンは、風上に向かって前進し、アンまで30メートルという位置にまで接近していた。アンはひたすら葉っぱを食べている。彼の存在に気づいていないのか、はたまた関心がないのかは、見たところわからなかった。


 ゾウはときに危険な動物である。気難しいうえに興奮しやすく、身を守ろうとするあまりどう猛になる場合があるのだ。ゾウ研究の世界的な権威として40年ものキャリアがあるからこそできる技なので、素人は真似してゾウに近寄ったりしないほうがいい。彼が確認しようとしていたのは、研究の目的で付けたアンの首輪の状態だ。

 ケニア中部にあるサンブル国立保護区は、知られざる自然の宝庫だ。サンブルという名は、勇猛さで名を馳せた地元の牧畜民族に由来する。保護区の面積は168平方キロと他の自然保護区と比べると決して大きくはないが、その環境は実に変化に富んでいる。半乾燥地帯のサバンナや険しい山地、干上がった川床-。エワソ・ニイロ川の北岸にはアカシアとヤシの森が広がっている。舗装道路はなく、周囲には家畜を飼って生計を立てるサンブルの人々がちらほら暮らしている程度だ。

 サンブル保護区には数多くの野生生物が生息している。ライオン、ヒョウ、チーターはもちろん、グレビーシマウマやアミメキリン、ベイサオリックス、ジェレヌク(ウシ科の草食動物)もいる。鳥の種類も実に豊富だ。ソマリアダチョウやアフリカオオノガンなどの大型のものから、トサカムクドリ、テンニンチョウ、ライラックニシブッポウソウといった、美しい小鳥も生息している。



そんな動物たちの頂点に立つのがゾウだ。樹木の皮をはいだり、根こそぎ引き抜いたりすることでサバンナに木が増えすぎるのを防ぎ、生態系の維持に重要な役割を果たしている。ライオンを威嚇して追い払うこともできるが、最大の天敵は人間だ。ゾウは保護区を自由に出入りできるので、人間から身を守ろうと保護区内に逃げ込むこともある。


 この保護区があるサンブル県周辺には、ライキピアを含め3つの県がある。保護区のすぐ南には牧場や小麦畑、自然保護区、丘、小さな渓谷、シャンバ(家族経営の農園)、土地を囲うフェンスなどが点在する。特にライキピアでは、農地や放牧地、集落、野生生物の生息地が混在していて、色とりどりのモザイクのようだ。一方、サンブルでは、農園やフェンスに囲まれた土地はほとんどない。

 サンブルの人々は、農耕のような地道で新しい生活様式に背を向け、ヤギやウシを飼育する昔ながらの暮らしを守っている。若い男たちはビーズや羽根、シュカという真っ赤な布で派手に着飾り、先祖代々の宿敵たちとの戦いに明け暮れる。このように伝統を重視する人々が暮らすサンブルは、今のところライキピアで行われているような大規模な開墾を免れている。もともと耕作に適した土地や水が少ないことや、観光が収入源になるという意識が浸透してきたことも影響しているのだろう。


 サンブルとライキピアにあるゾウの生息地は合わせて2万8500平方キロほどにもなり、およそ5400頭のゾウが生息している。主に保護区の外で暮らすゾウの個体数としては、ケニアでも最大規模だ。これだけ多くのゾウが生息し、さらに年々増加を続けている背景としては、ゾウたちにとって生活しやすく、繁殖にも適した環境がある。


その一方、微妙で複雑な要素もある。さまざまな用途の土地が混在し、季節ごとに環境が変化するこの地域には、ゾウにとっての危険が潜む。それは、人間との衝突だ。ゾウが作物を荒らしたり家畜を襲ったりすることもあれば、人間を牙で刺したり、踏み殺すといった事故も起こる。

 もちろん、人間がゾウを射殺することもある。ケニアの人口も年に2%の割合で増加しているから、衝突は増えることはあっても、減る見込みはなさそうだ。

 私たちは何を守り、何を犠牲にしなければならないのだろう? ゾウの移動ルート、トウモロコシ畑、農地を切り開こうとする人々の権利の間に、どう折り合いをつければよいのだろうか。その決定を下す立場の人々に、科学的に裏づけされた詳細かつ有効な情報を迅速に提供することが、ダグラス=ハミルトンのような研究者たちの目標なのである。

 歴史的にみると、乱獲によって絶滅の危機に瀕した時期もあれば、逆に増加しすぎて問題になる時期もある。これまで、ゾウたちは、乱獲されたり、保護されたり、と人間の都合に運命を左右されてきている。共存共栄していく道筋はどこにあるのか?それは、研究者たちに共通する思いといえるだろう。




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