2011年12月18日日曜日

2人目との結婚…「実はかなり難しい」

2人目との結婚…「実はかなり難しい」
一夫多妻が認められている理由と、その実現可能性
佐藤 兼永


今回は、イスラム教に基づいた一夫多妻制について考えてみたい。

 ムスリムの中には、「イスラム教は一夫多妻を認めていない」という解釈に立つ人たちがいる。しかし、このコラムでは、この立場には立ち入らない、イスラム法学で伝統的に認められてきた一夫多妻制をどう理解するかを主題とする。

イスラム教において、結婚は契約
 まず、ムスリムが一夫多妻制の根拠の1つとして引用するコーランの一節を紹介しよう。

もしおまえたちが孤児を公正に扱いかねることを心配するなら、気に入った女を2人なり3人なり、あるいは4人なり娶れ。もし妻を公平に扱いかねることを心配するなら、1人だけを、あるいは自分の右手が所有するものを娶っておけ。いずれにも偏しないためには、これがもっともふさわしい。

--コーラン第4章第3節--

 前回、イスラム法学を学んだ前野直樹さんの解説を紹介した。一夫多妻制は「扶養面での平等を条件とした必要時の社会救済策」というものだ。

 前野さんは、結婚できる女性の数をイスラム教が4人までに制限したことも見逃せないと指摘する。「それまでは何人でも『あり』だったということですね。それを4人までとした。さらに平等という条件を大前提とした」

 つまり、戦争未亡人たちと彼女らの子供たちを救済するために、神はムハマンドに一夫多妻は認める啓示を与えた。この啓示は、それ以前のように無制限に妻を持つことを認めたわけではない。 

 一方、前野さんはこう加える――人数制限と扶養面の平等という2つの条件を守る限り、戦争未亡人の救済以外の目的でも一夫多妻は認められる。イスラム法では一夫多妻制を広い意味での社会救済策と捉えるからだ。

 また、夫が2人目以降の妻を娶ることに対して、1番目の妻は拒否する権利がある。イスラム教における結婚とは、互いの権利と義務を規定する契約関係だという。「無断で2人目と結婚された。我慢できないのであれば、離婚も選択肢の1つです。それは宗教を踏まえて考えても正しいやり方です」(前野さん)

 もう1つの選択肢は、「最初に妻となる人が『どうしても2人目は受け入れられない』と思うならば、結婚する時にあらかじめ、『2人目を娶ってはならない』」(前野さん)と婚姻の契約条件に加えておくことだ。

妾100人と一夫多妻は別物
 一ノ割モスクのイマーム(導師)である大久保賢さんは、イスラム教が4人までの女性との結婚を認めていることを「一夫多妻制」と呼ぶことに批判的だ。

 「これって、けっこう大事ですよ。『一夫多妻制』って言うと、男性が女性を自分の好きなようにしていい感じがあるじゃないですか」しかしコーランの記述からも分かるように「王様が100人の妾を持つとか、そういうのとはだいぶ違うイメージです」(大久保さん)

 彼は、もしイスラム教の在り方についての詳しい説明を抜きに、一夫多妻制について知りたいって言う人がいたら、その質問には答えたくないと言う。「私はその人に明快に納得がいくように説明する自信はない」。なぜなら一夫多妻制に興味を持つ人の多くは、イスラム教が一夫多妻を認める理由を本当に知りたいとは思っていないと考えるからだ。「一夫多妻制について質問する人は下世話な興味本位ですよね」(大久保さん)



大久保さんはまた、ほとんどのムスリムにとって、一夫多妻制は自分の生活とは直接関係のない「他人事」で、「それがイスラムのすべてじゃない」と言う。「『2人目との結婚なんてもうけっこう』という感じです。だってイスラムにおける結婚って責任を伴いますから」。

 大久保さんはさらに、ムスリムでない日本人が抱く一夫多妻制のイメージの背後には、「ムスリムが奥さんを虐げている」といった誤った理解があると考える。

一夫多妻制は“男性差別”かもしれない
 日本人ムスリムであり、東京外語大学博士後期課程でイスラム思想を専攻する松山洋平さんは、一人の男性が複数の女性と結婚すること自体が女性差別だという意見に再考を促す。

 「一夫多妻制が女性差別だという考えに、個人的には疑問があります。『複数の女性が1人の男性を所有してる』という見方もできるじゃないですか。見方を変えれば『一人の男性を使い回しにしてる』って理解することもできるわけです。今は男尊女卑の社会で、女性の社会的地位が低い。こういう世界で一夫多妻制を考えたら、女性差別だと思うかもしれない。けれども、本当に男女の権利が平等か、あるいは女性の権利が上っていう社会を想定したときに、『一夫多妻』は全然違う見え方をすると思うんです。『そんな、1人の男性を物みたいに所有して。これは男性への差別だ』と言う人が出てもおかしくない」

 松山さんは「一夫多妻制の名の下に、女性の権利をないがしろにする。もしくは、ドメスティックバイオレンスが起こったりするのは問題だと思います」とも語る。一夫多妻の衣を被った女性の人権侵害がある事実を否定しているわけではない。しかし、人権侵害の原因を一夫多妻という結婚制度に求めることは間違いだと考える。

 そして、次の問を投げかける。「一夫多妻制に満足して実践している人がいるとしたら、『それを批判するっていう根拠はどこにあるの?』っていうように思いますね」

 実際、日本人ムスリムでも、一夫多妻でうまくいっているケースはあると多くのムスリムが指摘する。

 ある日本人女性から聞いた話を例に挙げよう。彼女の知人も日本人ムスリムの女性で、スカーフを被り、家の外でも礼拝することに強いこだわりを持っていた。そのため1人目の夫との離婚後も、夫の会社で働いていた。恐らく他に彼女のスカーフと礼拝を認めてくれる働き口を探したが見つからなかったのだろう。彼女は自分をきちんと扶養してくれる相手を捜すことにして、何人ものムスリムとお見合いをした。そして「この人なら」と思う既婚の男性と出会った。彼なら一夫多妻の平等の条件も守る努力をしてくれるだろうと考えて結婚し、その後問題なく暮らしているという。

 ここで疑問が生じるかもしれない。たとえ当事者全員の同意が得られていても、これでは重婚にならないだろうか? 日本だけでなく、ムスリムが多数を占める国においても、トルコのように複数の女性との結婚を国の法律が禁じているところがある。そうした場合の対応策は、1人目とは在住国の法律に基づく結婚をし、もう1人とはイスラム教で二カーフと呼ばれる「宗教婚」だけを行う、というものだ。

“一夫多妻”どころか、エジプト社会はかかあ天下
 世界的に見て、ムスリムの結婚のほとんどは一夫一妻だ。

 それは当然だろう。イスラム教の結婚は、妻の扶養義務を夫に課す。1人の奥さんを扶養することすらも大変だと言う声もある。松山さんは自身の結婚をこう語る。

 「そもそも1人の女性を娶るハードルもすごく高いんです。例えば、私は車も持ってないですし家政婦さんも雇ってない。ですから、たぶん古典的なイスラム法に則れば、妻が『離婚する』と言えば離婚が成立すると思うんですよ。必要な物資を調達してないので」

 大久保さんが語るエジプトの“かかあ天下” な夫婦関係は、アフガニスタンなどで虐げられている女性の姿が、ムスリム社会全体に一般化できないことを表している。




「エジプト人はみんな、結婚する時はハッピー、ハッピー。だけど、年を取るともう、奥さんの後ろにこう(背中を丸めるながら)くっついて歩くんですよ。(エジプトの奥さんは)強いんだって。アラブ女性は強いけどエジプト人は典型的だと聞いたことがある」

 この話を、温厚な日本人ムスリムと最近結婚したエジプト人の留学生に確認すると、彼女は「残念ながらその通りです」と答えた。

一夫多妻は、たいていの場合、離婚してしまう
 イスラム教における一夫多妻制は、「誰でも参加できますよ」と言っておきながら「2時間10分を切れるならば」という自己申告の条件がつくマラソンのようなものかもしれない。条件を満たす人がいないわけではない。しかし大半の人は、自分には参加資格がないという事実を知っている。

 インドネシア政府の国費留学生として、慶応義塾大学大学院の博士課程に在籍するメタ・アストゥティさんは旦那さんとの間に2人の子供がいる。

 メタさんによると、最近はインドネシアも経済的に豊かになり、2人目の奥さんと結婚するお金持ちが増えてきたという。彼女の身内にも一夫多妻の家族がいる。そのメタさんが語る一夫多妻の現実は次のようなものだ。

 「2人以上奥さんいても、普通は離婚してしまう。私の旦那のおじさんの奥さんは、何人くらいいたかな? 6人はいたかもしれない。私の旦那さんのお母さんは1番目の奥さんですね。彼女もやっぱり離婚」

 補足をすると、イスラム教では「同時に」4人までの女性と結婚できる。またメタさんによるとインドネシアでは国の法律で、2人目との結婚には最初の奥さんの許可が義務付けられているという。彼女の義理のおじに6人の妻がいたと言うのは、2人以上と結婚している状態を繰り返し、通算で6人という意味だ。

 彼女の一夫多妻制に対する思いは複雑だ。まず何より、イスラム教の教えとしてあるものだから否定したくない。そして、そのような教えがあるのは、社会的役割があるからだと考えている。コーランが規定するように男性が複数の妻を平等に扱うことは、「『ゼロ』は言えないですけれども、普通はできない」ことも否定しない理由の1つだ。つまり、認められているけれど、実際に正しく実践できる人はほとんどいない制度だから肯定する。

 メタさんは旦那さんに「2人目と結婚したくないのか?」と尋ねたことがあると言う。 彼女は「一夫多妻を正しく実践することの難しさを理解している」夫を信頼している。一方、もし本当に困っている女性がいて、自分の夫と結婚することで彼女の状況が改善するならば、結婚を認めてもよいかもしれない、と考えている。

 「もしうちの旦那さんが2人目の奥さんと結婚する許可が欲しいと言ったらば、私は許可しますよ。でも彼は絶対できないですよ。『あなた1人だけでもこんなに難しい。もうあと1人奥さんがいたら、私困るよ』って言ってます」

 メタさんはそう語ると、楽しそうに笑った。





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